BLUE GIANT(ブルージャイアント)10巻レビュー 残酷な物語の中に示されるかすかな希望

漫画

最終巻のレビュー。

僕がこの『BLUE GIANT』のレビューをブログで書き始めたのは2巻くらいまでを読んだ頃だった。

そこまで読んだだけで「この漫画を読んだ感想を記録に残しておきたい」と思い、レビューを始めた。

物語がこういう結末になるとは思わずに始めたレビューだったけれど、最後まで読んで改めて「この漫画に出会えて良かった」し、「レビューをしておいて良かった」と思えた。

ちなみに僕はこの漫画を読んだことをきっかけにして、久々にジャズのCDを購入した。

歌詞のないジャズはいまだによくわからないが、それでも以前とはジャズの聴き方が少し変わったように思う。

少なくとも、ジョン・コルトレーンやソニー・コリンズのソロを聴いて血湧き肉躍るパッションが感じられるくらいまでには、僕もジャズを理解できるようになった。

そういう意味でも『BLUE GIANT』という漫画には感謝をしたい。

というわけで、最終巻10巻のレビューだ。

9巻のレビューはコチラ↓

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『BLUE GIANT』10巻レビュー(ネタバレ含む)

9巻のレビューでは、『ジャス』というジャズバンドに『SO BLUE』のステージに立つという共通の目標ができ、彼らが『最強のチーム』になったことを書いた。

10巻は雪祈が一足早くその目標を達成する場面から始まる。

実現する雪祈の夢

海外ジャズバンドのピアニストが急遽出演ができなくなったため、彼はその代役として平から指名され、『SO BLUE』のステージに立つことになったのだ。

長野の田舎で育った雪祈。

彼はつき指を恐れ、学校のバスケットボールの授業は見学をしていた。

小学校6年生の時には「中学生になったら、もっともっとピアノを練習して、いつか日本一の舞台で演奏します」という夢を語った。

手を大きくするため、毎日寝る前に指を引っ張った。

プールの時間には水中で指を動かし、トレーニングをした。

一緒にジャズをする仲間を探していたが、趣味が合う仲間にはなかなか出会えなかった。バンドを組んでもジャズの難しさや雪祈の厳しさが原因で仲間は離れていくばかりだった。

そんな彼が大に出会い、『ジャス』を結成し、まずは1人だけだけれど、夢の舞台『SO BLUE』に立つことができた。

雪祈の演奏は平が鳥肌を立て、大が思わず心からの笑みを漏らすほど「自分に正直」で「内臓をひっくり返す」ほど感動的なものだった。

演奏後、雪祈はトイレで1人自分の両手を見つめ、「できた…」と呟き、涙を漏らす。

それは初めて夢の舞台に立てた感動でもあり、プレッシャーを跳ね除けた安堵でもあり、追い求めていたプレーができたことへの充実感でもあった。

ジャズを信じる者

雪祈の名演の甲斐あって、『ジャス』はバンドとして『SO BLUE』に出演することになる。

雪祈はそれをジャズバー『TAKE TWO』で大、玉田、そしてバーのママであるアキコに同時に告げる。

「そう…良かった」と冷静にお祝いの言葉を告げるアキコ。

でも、アキコは盛り上がる3人に背を向け、1人泣いていた。洗い物をする音で自分の泣き声を搔き消しながら…。

8巻のレビューでも書いたが、孫がいる年齢になっても1人でジャズバーのママを続けるアキコの人生は誰から見ても幸せなものだとは決して言えない。

見る人によっては、彼女は夢を諦めなかったばかりに、一般的な幸せを手に入れることができなかった女性だ。

でも、『ジャス』が夢を叶えたことで、同時に彼女の夢も叶ったのではないのだろうか。

アキコの夢は、彼女よりもジャズを信じる者達によって実現されたのだ。

あまりにも巧みで残酷な演出

『ジャス』の『SO BLUE』への出演に向けて集客やCDのリリース等の準備が着々と進んでいく。

でも、そんな中、雪祈が工事現場でのアルバイト中に居眠り運転をするトラックに轢かれてしまう。

そして、彼の右手は一目見て「もうピアノを弾くことは無理だろう」と誰もが感じてしまうほどに、文字通り破壊されてしまう。

僕は初めてこの場面を読んだ時、作者を恨んだ。

「物語を盛り上げるためになぜこんな演出をするのか…」

「本当にこの場面がこの漫画には必要なのか…」

雪祈が『SO BLUE』に1人で出演している際にフラッシュバックされた彼の過去のエピソードは、演奏時は雪祈の輝きを増す要素になっていた。しかし、事故に遭ってしまったことで、それらの要素は一転して悲劇を増す要素になった。

雪祈がバスケットボールの授業を欠席してまで守った指が、手を大きくするために毎晩引っ張った指が、プールの中でもトレーニングを続けてきた指が、事故によって粉々にされてしまったのだ。

1つのエピソードを栄光と悲劇に効果的に用いることができるのは、作者の物語作りが巧みだから。でも、僕はこの場面で起きたことが信じられず、しばらくページを前に進めることができなかった。

雪祈を失った『ジャス』だったが、大は玉田と2人だけでステージに立つことを決意し、徹夜で練習を続ける。

大は立ち止まらず、前に進むことを選択し、見事『SO BLUE』でのライブは大成功を収める。

演奏の最後、大が語る「本日演奏した曲はほぼ全て、ピアニスト沢辺雪祈が作曲した曲です」と語る場面は感動的だ。

『ジャス』は確かに3人でステージに立ったのだ。

示されるかすかな希望

『SO BLUE』での演奏後、大と玉田は雪祈が入院する病院に行く。

そこで、雪祈の言葉により、『ジャス』は解散することになる。

雪祈の事故があまりにも衝撃的で、それをずっと引きずり続けながら読み進めた最終巻だったが、後から読み返してみると、かすかに希望が感じられる場面が多々あることに気づいた。

事故に遭う前、雪祈は夜に作曲作業をしながら「そうか…そうだったんだな…オレは、曲を創るのが…」と1人感じる。

余韻の後に語られるべきだった言葉は、練習の後、大と2人で歩く場面で語られる。

「オレ、『作曲』が好きだ。ボクシングみてえに瞬間瞬間に打ち出すソロはずっと憧れきたし惚れてる。でもオレは考えて練って、その結果感じて、それから一つ一つ紡ぐ音作りも好きなんだって分かりました」

物語の最後、大は外国に行くことを決意する。

出発間近大が電話をすると、雪祈は震える左手で楽譜を書いていた。

大は電話越しに伝える。

「オレは、お前のピアノが好きだ。もしかしたら、オレが一番のファンだ」

その言葉を聞いて雪祈は涙を流す。

『BLUE GIANT』は全10巻で連載を終えたが、その後『BLUE GIANT SUPREME』として再開している。

そして、2017年現在連載はまだ継続中だ。

僕は、今後の展開の中で雪祈が作曲した曲をいつか大が演奏する場面が訪れることを期待してやまない。

というか、その場面を作らなかったら、作者は相当の意地悪だ。

10巻では一旦は輝きの演出として使われた雪祈の努力が、悲劇の演出にも使われた。だから、今度は悲劇が輝きの演出に使われる日がくることを心から祈っている。

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